出典:臨床医薬. 2016;32(12): 951-958
白藤宜紀1)、仁科智裕2)、小暮友毅3)、渡邉枝穂美4)、山本信之5)、清原祥夫6)、
山崎直也7)、川島 眞8)
1)岡山労災病院 皮膚科
2)独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター 消化器内科
3)独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター 薬剤部
4)独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター看護部
5)和歌山県立医科大学 呼吸器内科・腫瘍内科
6)静岡県立静岡がんセンター 皮膚科
7)国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 皮膚腫瘍科
8)東京女子医科大学 皮膚科
1.背 景
これまで我々は、分子標的薬による皮膚障害の対策について、皮膚科医、腫瘍内科医、薬剤師、看護師を含めた有志によるコンセンサス会議を開催し、その内容の一部は既に報告している1)~4)。
今回、13施設、29名(表1)が参加し、2016年2月に開催した第3回コンセンサス会議における議論を踏まえ、マルチキナーゼ阻害薬による皮膚障害の最良の対策をとることを目的として、手引きの作成を行った。
2.マルチキナーゼ阻害薬による皮膚障害
マルチキナーゼ阻害薬は、高率に手足症候群を発症することが知られている。手足症候群は、これまでカペシタビン、タキサン系抗がん剤などで多く見られていたが、マルチキナーゼ阻害薬によるものはこれまでのものと異なる(表2)。荷重部に症状がより限局し、水疱形成や過角化を起こしやすく、水疱形成に至った場合などは強い痛みを伴い、歩行障害をきたすことも珍しくない。
さらに、マルチキナーゼ阻害薬により、数パーセントの患者に多形紅斑を生じる。
3.皮膚障害(手足症候群)の重症度評価
患者の自覚症状や日常生活への影響(日常生活動作;ADL)を重視したCTCAE ver. 4.0における、Palmar-plantar erythrodysesthesia syndrome(日本語訳;手掌・足底発赤知覚不全症候群)のグレード分類をもとに、その根本の定義は変えず、より平易で具体的な分類を策定した(表5)。CTCAEでは重症度を「Grade」で表すが、我々の重症度分類はCTCAEとの混同を避けるため、「軽症・中等症・重症」と表現することとした。
4. 治療アルゴリズム(表6~8)
本アルゴリズムは、チーム医療としてがん薬物治療に関わる医師、薬剤師、看護師ら多職種により使用されることを想定して作成した。マルチキナーゼ阻害薬による手足症候群は、重症度が高くとも、休薬によって比較的速やかに改善するため、発症後早期の休薬・用量調整が重要となる。また、発症前の予防、ケアが重要である。このため、本アルゴリズムにおいては発症前の予防策について、医療者側と患者側、それぞれの視点より行うべきことを具体的かつ平易に記載した。さらに発症後には、それに対する対症療法に加え、原因薬剤の継続、減量、休薬について記載した。皮膚科専門医へ紹介するべきタイミングについても記載した。
多形紅斑については、その重症度によって治療も多岐にわたるため、速やかに皮膚科専門医への紹介が望ましい。即時紹介が不可能な場合には、ステロイドの全身投与(プレドニゾロン換算にて0.5~1.0mg/kg/日)開始を考慮する。
- 1)川島眞:分子標的薬による癌治療に随伴する皮膚障害の診療実態と課題―皮膚科医を対象としたインターネット調査の結果から―.日皮会誌、123:1527-1536, 2013.
- 2)川島眞、山本信之:―皮膚科・腫瘍科ジョイントセミナー― がん患者さんを支える視点で考える、分子標的薬に起因する皮膚障害とその対策(抄録).日皮会誌、123:881, 2013.
- 3)川島眞、清原祥夫、山﨑直也、他:分子標的薬に起因する皮膚障害対策-皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告-.臨床医薬、30:975-981, 2014.
- 4)川島眞、清原祥夫、山﨑直也、仁科智裕、山本信之:分子標的薬に起因する皮膚障害対策-第2回 皮膚科・腫瘍内有志コンセンサス会議の報告-.臨床医薬、31:1079-1088, 2015
【利益相反】
本コンセンサス会議に関する費用は、特定非営利活動法人JASMINの支援による。
表1 第3回コンセンサス会議参加者一覧
所属施設 | 所属部署 | 氏名 | |
座 長 |
東京女子医科大学 |
皮膚科 | 川島 眞 |
和歌山県立医科大学 | 呼吸器内科・ 腫瘍内科 |
山本 信之 | |
世 話 人 |
静岡県立静岡がんセンター | 皮膚科 | 清原 祥夫 |
国立病院機構四国がんセンター | 消化器内科 | 仁科 智裕 | |
国立がん研究センター中央病院 | 皮膚腫瘍科 | 山﨑 直也 | |
参 加 者 |
聖路加国際病院 | 皮膚科 | 新井 達 |
医療法人明和病院 | 皮膚科 | 黒川 一郎 | |
岡山労災病院(岡山大学) | 皮膚科 | 白藤 宜紀 | |
九州大学医学部 | 皮膚科 | 中原 剛士 | |
和歌山県立医科大学 | 皮膚科 | 山本 有紀 | |
兵庫県立がんセンター | 呼吸器内科 | 里内 美弥子 | |
薬剤部 | 小田中 みのり | ||
看護部 | 藤木 育子 | ||
国立病院機構九州がんセンター | 呼吸器腫瘍科 | 瀬戸 貴司 | |
薬剤部 | 魚井 みゆき | ||
看護部 | 吉田 ミナ | ||
国立病院機構四国がんセンター | 呼吸器内科 | 原田 大二郎 | |
薬剤部 | 小暮 友毅 | ||
看護部 | 渡邉 枝穂美 | ||
聖マリアンナ医科大学病院 | 腫瘍内科 | 津田 享志 | |
薬剤部 | 湊川 紘子 | ||
看護部 | 京盛 千里 | ||
和歌山県立医科大学 | 呼吸器内科・ 腫瘍内科 |
上田 弘樹 | |
呼吸器内科・ 腫瘍内科 |
赤松 弘朗 | ||
附属病院 薬剤部 | 島田 佳代子 | ||
附属病院 看護部 | 杉本 里実 | ||
大阪府立成人病センター | 呼吸器内科 | 西野 和美 | |
薬局 | 中多 陽子 | ||
看護部 | 谷口 純子 |
表2 従来の薬剤によるものと分子標的薬による手足症候群の違い
表5 a)皮膚障害の重症度評価 b)手足症候群の重症度評価
表6 マルチキナーゼ阻害薬による手足症候群への治療方針
表7 手足症候群 投与開始前~手足症候群発症前に行うこと(医療者)
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