特定非営利活動法人JASMIN主催 分子標的薬に起因する皮膚障害対策 -皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告-

出典:川島 眞、清原祥夫、山﨑直也、仁科智裕、山本信之 : 臨床医薬, 30(11):975-981, 2014


川島 眞1)、清原 祥夫2)、山﨑 直也3)、仁科 智裕4)、山本 信之5)
1)東京女子医科大学皮膚科学教室
2)静岡県立静岡がんセンター皮膚科
3)独立行政法人国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科
4)独立行政法人国立病院機構四国がんセンター消化器内科
5)和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科
1.背 景
 近年、癌治療にはさまざまな分子標的薬が使用されているが、それとともに有害事象としての皮膚障害の存在が問題となってきた。分子標的薬に起因する皮膚障害は、薬剤の効果と皮膚障害の程度との間に正の相関を示す特徴を有し、薬剤の副反応としてではなく、薬剤の主作用の結果として発現することが推測されている。しかし、重度な皮膚障害が発現した場合には、分子標的薬の中断・中止を考慮せざるを得ず、ここに一つのジレンマが存在する。ゆえに、分子標的薬に起因する皮膚障害に関しては、治療の継続を念頭においた皮膚症状のコントロールが求められ、これまでも癌治療の場では、腫瘍内科医を中心とするチーム医療としての対応、さらには皮膚科医の関与を含めて試行錯誤が繰り返されてきた。
2.コンセンサス会議開催の経緯と概要
 分子標的薬に起因する皮膚障害マネジメントの重要性の高まりを受け、著者らは2013年の第112回日本皮膚科学会総会において、日本臨床腫瘍学会の後援を得て、「がん患者さんを支える視点で考える、分子標的薬に起因する皮膚障害とその対策 皮膚科と腫瘍内科、最良の連携体制を模索する」と題する、互いの取り組みを提示し合うセミナーを開催し、診療科を超えた連携の重要性についての提言を行った。
 今般、本議論をさらに深めるものとして、両科医師に加え、チーム医療としてともに対応にあたる薬剤師、看護師の有志による第1回コンセンサス会議を2014年2月に開催した。
 このコンセンサス会議では『癌患者さんがアルゴリズムに従った治療を継続出来るよう、その妨げとなる皮膚障害への最良の対策を、腫瘍内科、皮膚科、看護師、薬剤師の連携により構築し、実践してゆくこと』を共通の目標として掲げた。
3.ステロイド外用薬の使用に関して、特に顔面への長期にわたる連用は、痤瘡痤瘡様皮疹との鑑別が特に困難な副作用である「酒さ様皮膚炎」が発現する可能性があるため、その連用は4週間程度までに留める必要がある。
注)
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表1 第1回コンセンサス会議 参加者一覧

  所属施設 所属部署 氏名

東京女子医科大学
皮膚科学教室 川島 眞
和歌山県立医科大学 内科学第三教室 山本 信之



国立がん研究センター中央病院
皮膚腫瘍科 山﨑 直也
静岡県立静岡がんセンター 皮膚科 清原 祥夫


笠岡市立市民病院(岡山大学) 皮膚科 白藤 宜紀
聖路加国際病院 皮膚科 新井 達
医療法人明和病院 皮膚科 黒川 一郎
九州大学医学部 皮膚科学教室 中原 剛士
和歌山県立医科大学 皮膚科学教室 山本 有紀
兵庫県立がんセンター 呼吸器内科 里内 美弥子
  薬剤部 柴田 直子
  看護部 藤木 育子
国立病院機構九州がんセンター 呼吸器腫瘍科 瀬戸 貴司
  薬剤科 林 稔展
  看護部 吉田 ミナ
国立病院機構四国がんセンター 消化器内科 仁科 智裕
  薬剤科 小暮 友毅
  看護部 森 ひろみ
聖マリアンナ医科大学病院 腫瘍内科 津田 享志
  薬剤部 湊川 紘子
  看護部 京盛 千里
和歌山県立医科大学 内科学第三教室 赤松 弘朗
  化学療法部門 上田 弘樹
  附属病院 薬剤部 佐野 綾香
  附属病院 看護部 小川 陽子
順不同、敬称略
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表2 痤瘡様皮疹への対応

ステロイド外用
顔:     ストロング以上が必要
躯幹・四肢: ベリーストロング~ストロンゲストが必要
タクロリムス外用
奏功する可能性があるが、エビデンスは十分ではない
ミノマイシン内服
100~200mg/日で開始し、症状軽快に伴い、減量、間欠投与に移行。3ヵ月を目途とする
マクロライド系抗菌剤も可
ステロイド内服
皮疹が広範囲であれば、プレドニゾロン10mg/日 2週間程度の使用を考慮する
抗菌剤外用
軽症例ではステロイド外用に代わる選択肢の1つ
保湿剤外用
有用性は期待されるがエビデンスは不足
洗浄、保護、保湿剤外用などの日常生活の見直しやセルフケアについての介入が有用

*顔面への長期にわたる連用は、痤瘡様皮疹との鑑別が特に困難な副作用である、酒さ様
 皮膚炎が発現する可能性があるため、その連用は4週間程度までに留める必要がある。


出典:川島 眞、清原祥夫、山﨑直也、仁科智裕、山本信之 : 臨床医薬, 30(11): 975-981, 2014
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表3 瘙痒・痒疹への対応

抗ヒスタミン薬を使用するが、エビデンスはない
多くは皮膚乾燥を伴うため保湿剤を使用するが、エビデンスは十分ではない
制吐剤のアプレピタントが有効とする報告がある
痒疹様の皮疹に対しては、ストロンゲストのステロイド外用を行う
リウマチ様血管炎を思わせる皮疹が出現した場合は、皮膚潰瘍の治療に準じて対応する
出典:川島 眞、清原祥夫、山﨑直也、仁科智裕、山本信之 : 臨床医薬, 30(11): 975-981, 2014
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表4 爪囲炎への対応

早期では、洗浄などのケア、テーピング処置
進行すれば、不良肉芽に対して液体窒素凍結療法、外科的切除、部分抜爪
二次感染には、セフェム系抗菌剤の投与、あるいはミノマイシンを継続
アダパレンが有効とする報告がある
出典:川島 眞、清原祥夫、山﨑直也、仁科智裕、山本信之 : 臨床医薬, 30(11): 975-981, 2014
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表5 皮膚乾燥・角化への対応

皮膚乾燥
・保湿剤の外用。ヘパリン類似物質製剤などの有用性を示す報告がある
・基本的なスキンケアとして、洗浄、保護
手指の角化
・軽症では、保湿剤外用、サリチル酸ワセリン外用
・重症では、ストロンゲストのステロイド外用またはODT
踵の角化
・軽症では、1)ヘパリン類似物質製剤外用、サリチル酸ワセリン外用
・中等症では、1)に加えて、亀裂部に対し、2)ストロンゲストのステロイド外用
・重症では、1)、2)に加えて、深い亀裂部に対し、
 被覆治療剤(ドレニゾンテープ、デュオアクティブ、オプサイトなど)を併用
出典:川島 眞、清原祥夫、山﨑直也、仁科智裕、山本信之 : 臨床医薬, 30(11): 975-981, 2014
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表6 マルチキナーゼ阻害薬による手足症候群

治療は、保湿とステロイド外用が中心となる
Grade1の症状が発現したら、ベリーストロングのステロイド外用を行い、症状が強くなればランクアップ
症状がGrade 2に進行したら、ストロンゲストのステロイド外用でも、Grade 3に進行することを阻止するのは困難なので分子標的薬を休薬
改善した後、休薬・減量の手順に従い、分子標的薬の投与を再開
足の症状が重篤化するため、保湿、角質コントロール、除圧を中心とした、予防的スキンケアが重要
出典:川島 眞、清原祥夫、山﨑直也、仁科智裕、山本信之 : 臨床医薬, 31(12): 1079-1088, 2015
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