EGFR阻害薬・マルチキナーゼ阻害薬に起因する皮膚障害の治療手引き(2020年改定版)<br>―皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議からの提案―

出典:Prog. Med. 40:1315~1329, 2020


山本有紀1)、清原祥夫2)、仁科智裕3)、藤山幹子4)、山﨑直也5)、山本信之6)、川島 眞7)

1)和歌山県立医科大学 皮膚科
2)静岡県立静岡がんセンター 皮膚科
3)四国がんセンター 消化器内科
4)四国がんセンター 皮膚科
5)国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
6)和歌山県立医科大学 呼吸器内科・腫瘍内科
7)東京女子医科大学

1.要 旨
 第7回コンセンサス会議において、2016年に作成したEGFR阻害薬およびマルチキナーゼ阻害薬に関連した皮膚障害の治療手引き1)2)について臨床現場からの意見や新しく得られた知見を基に討議し、一部修正したので報告する。今回の会議には、12施設、32名(表1)が参加した。

2.EGFR阻害薬に起因する皮膚障害の治療手引き修正の主なポイント
1) ざ瘡様皮疹の治療(図1)
 正しいスキンケアとともにがん治療前からのテトラサイクリン系もしくはマクロライド系抗菌剤の予防投与が椎奨される。なお、ミノサイクリンによる間質性肺炎や肝障害の発現には注意を要する。また、クラリスロマイシンはCYP3A4の高度な阻害作用を持つために、タルセバ®の血中濃度上昇による副作用増悪のリスクがある。
 外用薬治療に関しては、基本はステロイド外用である。顔面はステロイドの副作用が生じやすい部位であり、ステロイドざ瘡、毛包虫性ざ瘡を併発する可能性があり、治療抵抗性の皮疹が続く場合やステロイド外用を長期継続している場合には皮膚科専門医への紹介が望ましい。
 EGFR阻害薬開始時から予防治療を行ったうえで発症した顔面ざ瘡様皮疹に対しては、mildクラスのステロイド外用薬を標準療法とし、必要に応じてランクアップ3)を、予防治療を行っていない場合は、very strongクラスのステロイド外用薬を使用する。また、重症の場合にはEGFR阻害薬の休薬が必要になるが、皮疹に対する治療としては、短期のステロイド内服(目安はプレドニゾロン10mg/日 2週間)が必要になる。
 しかし、ステロイド外用薬を1カ月以上使用して軽快しなければ細菌性毛包炎を疑う4)。細菌性毛包炎の場合、中等症以下は外用抗菌剤(ナジフロキサシンなど)が第一選択であるが、重症例あるいは広範囲の皮疹、全身症状を伴う、深在性感染症を合併するなどの場合は第一世代セフェム系経口抗菌薬を開始すると同時に細菌培養を行う。薬剤耐性により改善が見られなければ抗MRSA薬投与も可能であるが、高価という問題もあるため、一時的なEGFR阻害薬の休薬を考慮する。

2) 爪囲炎の治療(図2)
 患者のADLを最も下げることより、治療前からの指導が重要である。爪切りの方法(切りすぎない)やスキンケア(趾間まで丁寧に洗う)、また、足白癬の有無のチェックは必要である。重症化を防ぐために、軽症から発赤や腫脹に対しては、very strongクラスのステロイド外用から開始するが、それにも関わらず中等症に進行した場合、黄色ブドウ球菌などの細菌や白癬菌、カンジダなどの真菌による感染症の可能性があり、KOH直接検鏡と同時に細菌培養、真菌培養を行う。陽性であればステロイド外用を中止して、適切な抗菌/真菌薬治療に変更する。中等症ではstrongestクラスのステロイド外用が必要になるが、外用剤などによる治療が奏効しない場合には、爪甲の部分抜去などの外科的処置を考慮する。二次感染に対しては、1週間をめどとしたミノマイシンやセフェム系抗菌剤が必要となる。
 なお、患者は、痛みのために洗浄することを避けるために二次感染が悪化する傾向があり、丁寧な洗浄の必要性を説明することは特に重要である。重症では、休薬とともに液体窒素凍結療法、外科的処置などの爪囲炎の程度に準じた治療が必要であるが、外科的処置が奏効することが多く、長期の休薬は必要ないと考える。

3.マルチキナーゼ阻害薬に起因する皮膚障害の治療手引き修正の主なポイント
 1)手足症候群の治療(表2)
 軽症:原因薬剤の継続は可能である。荷重の原因の追究、可能な軽減策および創傷被覆材による悪化防止策5)を取り、保湿剤のほか、very strong~strongestクラスのステロイド外用薬を塗布する。1~2週以内に再診、再評価を行う。
 中等症:原因薬剤の減量、休薬は各薬剤の適正使用ガイドラインなどの基準に従うが、急速に増悪しているなど、重症に至る可能性が高いと考えられる場合は、軽症以下になるまで休薬する。再投与時の用量調整は各薬剤の基準に従って行う。保湿剤、very strong~strongestクラスのステロイド外用剤のほか、疼痛が強い場合には消炎鎖痛薬の内服も行う。補助的にステロイドの全身投与(プレドニン換算 10mg)を検討する。1週間以内を目途として再診、再評価を行い、皮膚科専門医への紹介を検討する。

4. 以下に、症状の理解を深めるために、症例写真を提示した。

注:症例11の写真は皮疹の状態を示すものであり、マルチキナーゼ阻害薬とは無関係である

  1. 1)山本有紀、上田弘樹、山本信之、他:EGFR阻害薬に起因する皮膚障害の治療手引き 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議からの提案.臨床医薬 2016:32:941-949.
  2. 2)白藤宜紀、仁科智裕、小暮友毅、他:マルチキナーゼ阻害薬に起因する皮膚障害の治療手引き 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議からの提案.臨床医薬 2016;32:951-958.
  3. 3)Yamazaki N, Kikuchi K, Nozawa K et al : Primary analysis results of randomized controlled trial evaluating reactive topical corticosteroid strategies for the facial acneiform rash by EGFR inhibitors (EGFRIs) in patients (pts) with RAS wild-type (wt) metastatic colorectal cancer (mCRC): FAEISS study. Annals of Oncology 2019; 30 (suppl_5): v930.
  4. 4)Tohyama M, Hamada M, Harada D et al : Clinical Features and Treatment of Epidermal Growth Factor Inhibitor-Related Late-Phase Papulopustular Rash. J Dermatol 2020; Feb;47(2):121-127.
  5. 5)Shinohara N, Nonomura N, Eto M et al: A Randomized Multicenter Phase II Trial on the Efficacy of a Hydrocolloid Dressing Containing Ceramide with a Low-Friction External Surface for Hand-Foot Skin Reaction Caused by Sorafenib in Patients with Renal Cell Carcinoma. Ann Oncol 2014; Feb;25(2):472-6.

【利益相反】
本コンセンサス会議に関する費用は、特定非営利活動法人JASMINの支援による。

*本稿の全文は、Progress in Medicine Vol. 40 No. 12 に掲載されている。

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表1 第7回皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議参加者

東京女子医科大学 座長-皮膚科 川島 眞
和歌山県立医科大学 座長-腫瘍内科 山本 信之
国立がん研究センター中央病院 世話人-皮膚科 山﨑 直也
静岡県立静岡がんセンター 世話人-皮膚科 清原 祥夫
国立病院機構四国がんセンター 世話人-腫瘍内科 仁科 智裕
     
医療法人明和病院 皮膚科医 黒川 一郎
九州大学医学部 皮膚科医 中原 剛士
和歌山県立医科大学 皮膚科医 山本 有紀
聖路加国際病院 皮膚科医 新井 達
大阪国際がんセンター 皮膚科医 爲政 大幾
兵庫県立がんセンター 皮膚科医 高井 利浩
国立病院機構四国がんセンター 皮膚科医 藤山 幹子
兵庫県立がんセンター   腫瘍内科医 里内 美弥子
薬剤師 渡邊 小百合
看護師 藤木 育子
国立病院機構九州がんセンター   腫瘍内科医 豊澤 亮
薬剤師 魚井 みゆき
看護師 吉田 ミナ
国立病院機構四国がんセンター   腫瘍内科医 原田 大二郎
薬剤師 亀岡 春菜
看護師 橋田 愛
聖マリアンナ医科大学 腫瘍内科医 土井 綾子
聖マリアンナ医科大学病院  薬剤師 湊川 紘子
看護師 京盛 千里
和歌山県立医科大学 腫瘍内科医 上田 弘樹
和歌山県立医科大学附属病院   薬剤師 西村 知恭
看護師 岸部 美和子
看護師 樫山 美佳
大阪国際がんセンター   腫瘍内科医 西野 和美
薬剤師 高橋 幸三
看護師 加治木 祐子
国立がん研究センター中央病院 看護師 柳 朝子
順不同、敬称略
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図1 ざ瘡様皮疹に対する治療アルゴリズム

図1 ざ瘡様皮疹に対する治療アルゴリズム

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図2 爪囲炎に対する治療アルゴリズ

図2 爪囲炎に対する治療アルゴリズ

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表2 手足症候群に対する治療アルゴリズム

表2 手足症候群に対する治療アルゴリズム

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